昔々のコンパルソリー
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■伊藤みどり 88年五輪 コンパルソリー競技の模様
「コンパルソリー」とは、1990年まで行われていたフィギュアスケートの「規定演技」のこと。決められた図形をスケートでなぞって、決められたターンやチェンジエッジを行っていく、まさにがんじがらめの「規定」で、これが面白くも何ともない。選手にとってはただの拷問。案の定、徐々に大会からは外されていきました。
しかし、元来のフィギュアスケートのフィギュアは「形・図形」という意味です。その発祥にしても、スコットランド人が、いかに正確な図形を氷上に描けるか、という遊びから始まったとされています。
綺麗な図形を描くには、エッジさばきの正確さが要求されます。ひとけりの進みもなるべく長くしたほうがいい。静かに滑らかに、氷に張り付くようなスケーティングが理想とされています。
現代のフィギュアスケート競技では、外されてしまったとはいえ、実は根っこにはこの「コンパルソリー」の考えが、生きていると思います。ですからあの、パトリック・チャン選手の圧倒的な点数……多少4回転が甘くても優勝出来てしまう……となってしまう。
皆「華麗なジャンプをびゅんびゅん跳んで、ステップもマイムも素晴らしかったのに、何故2位なんだ?」って首をひねるケースが、多いかもしれません。でもそのジャッジメントの裏には、こういう考え「スケートの基礎技術の正確さが第一、4回廻った5回廻ったは第2義」という、伝統的な考えがあると思うんです。
これの良否は、私には分かりません。でも伝統が成立した経緯や理由は、最大限尊重されるべきではないかと思います。「跳んで廻って踊るだけがフィギュアスケートではなかった」と。