五線親父の縁側日誌

永遠の70年代男・テリー横田の日誌です。

筆者は田舎の初老爺、下手の横好きアマチュア作曲屋、70年代洋楽ポップス愛好家、70年代少女漫画愛好家、
女子ヴァリボ&フィギュアスケートオタ、Negicco在宅応援組です。

ベートーベンが愛した女達


突然ですがベートーベンの話を。某BS放送で似たようなテーマの番組を見たモノで。ただこのへんは皆、伝記とかにも間違いなく書いてある有名事項なんで、知ったかぶりして書くのも気がひけるのですが……。


ベートーベンには有名な「不滅の恋人」問題という謎があります。ベートーベンの死後、遺品の中から「我が不滅の恋人よ!」と呼びかける、出さずじまいになった3通の熱烈なラヴレターが出てきます。この相手が一体誰なのか? これもまた、ベートーベン研究の長年の謎とされていて、いや教え子の誰々が本命だとか、どこそこの伯爵夫人に道ならぬ感情を抱いていてそれが心の恋人だったとか、とにかく様々な説が紛糾しています。


生涯独身だったベートーベンは、実は一度「婚約」をした(と、されて)います。その相手が、テレーゼ・ブルンスヴィックという人。この人はとても頭の良い人だったらしく、後に、当時まだ一般的ではなかった幼稚園を開設し、オーストリアハンガリーの幼児教育の基礎を作る教育者となりました。


その妹のヨゼフィーネ・ブルンスヴィックという人がいて、この人は姉ほどの知性派ではないにせよ、美人で儚げな人だったようです。……後に資産家のダイム伯爵と結婚しますが、実は! 婚約者の姉テレーゼよりも、こっちの妹ヨゼフィーネの方こそ、ベートーベンの真の恋人だった! とされています。


ここでまた謎が出てくる。ベートーベンは愛する妹ではなく、何故その姉と婚約したのか??


ヨゼフィーネはどうも、家同士の問題とかで「愛のない結婚」をさせられた節がある。本人はベートーベンを憎からず思っていたのでしょうが、耳が悪く強情で不細工、将来性もないベートーベンは、結婚相手とはふさわしくなかった。そのせいもあって別な資産家と結婚したようです。ところがその結婚が不幸だった。夫ダイム伯爵は三十才も年上で話も合わない。おまけに資産家のはずなのに借金も多かった。で、結婚五年後この夫が、旅先で急死してしまいます。四人の子供を抱えて当方に暮れるヨゼフィーネを、ベートーベンはなにくれと無く援助したらしい。二人が本格的に恋に落ちたのは、どうもここからのようです。


未亡人とはいえ独身だから、この恋は良いんじゃないか、というのは、現代の尺度ですね。当時はまだ、未亡人がおいそれと再婚すると不貞と言われた時代です。夫が亡くなったとはいえ、伯爵家の母として子供を育てる義務もある。平民のベートーベンとは、所詮「身分違い」なわけですし、好き合っていたとしても「道ならぬ恋」だったのです。


この一種のスキャンダルを隠すために、妹をかばうために、姉テレーゼは、ベートーベンと「偽装婚約」を、したのではないか。普段から独身主義を公言し、それを周りに認めさせるほどの才女ぶりを発揮してきた姉なら、これも変わり者同士の婚約とは言われても、身分違いもある程度超えられる。スキャンダルではない。妹との一件をもみ消すにはちょうど良い。で、ヨゼフィーネを泣く泣くあきらめたベートーベンに対して、テレーゼの方から事情を言って持ちかけたのではないか。


・・・とまあ、これは私の仮説になるのですが、この策士の姉テレーゼもまた、ベートーベンに並々ならぬ感情を寄せていたたのではないかと思います。そんなに頭の良い人なら、ベートーベンの発する芸術家としての魂の部分を、本能的に理解できたはずだし、その強烈なオーラに惹かれない方が不自然でしょう。婚約が本当だとすれば「妹ではなく、今度は私を見て!」という思いが、あったのかもしれない。


しかしながらこの姉との関係も、やはりベートーベンの癇癪持ちの性格から上手くはいかず、婚約は破棄されたと言います。以降、テレーゼも、一時は自暴自棄になり、あれほど嫌っていた社交界サロンに出かけたり、結局傷ついて帰ってきたりと、普段の自分を見失う時を数ヶ月過ごしています。その後は、妹の遺児達の教育に心血を注ぎ、そこから幼稚園を立ち上げ、教育者として独身を貫きました。


天使ヨゼフィーネは、その後の再婚にも失敗し、だんだん精神をも犯されていったようです。ベートーベンも、三たび登場し彼女に支援をします。ここで二人は、果たして結ばれたのか否か。結ばれ、女の子をなしたという説と、時すでに遅く、ヨゼフィーネの病状が進行していたという説と、二つに分かれています。ヨゼフィーネは最期、姉テレーゼの見守る中、狂気のウチに死んでいった、とされています。1821年、まだ41歳でした……。


ベートーベンの方はと言うと、おいっこの親権を引き受けたことで、子供の母親と裁判沙汰になったり、それが一段落すると自分が病気なったりと、創作不振の「転落の谷間」と呼ばれる数年間を過ごします。ヨゼフィーネの加減のことは気になりながらも、生来のほれっぽさ、またぞろ別な女性(既婚=不倫!)に恋をします。実は先述した「不滅の恋人」とは、ヨゼフィーネではなく、このころ夢中になっていたプレンターノ伯爵夫人のことらしい。(^^;;


当然これも実らないわけです。この孤独が、数年後の「第9交響曲」を生むことになる。人類の連帯を歌ったこの大交響曲の裏に、女の不幸な涙と、どうしても恋愛に生きられなかった男のやるせなさが、隠されて居るんですね。


参考:ピアニスト、故・園田高弘氏のサイト

http://takahiro-sonoda.com/lecture/009.html

(ベートーベンの伝記と、女性達の話がまとめられたサイトをリンクしておきます。)

文献:

青木やよひ著「ベ-ト-ヴェン〈不滅の恋人〉の探究」

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4582765998.html

(日本人研究者による画期的な著作だそうです)