五線親父の縁側日誌

永遠の70年代男・テリー横田の日誌です。

筆者は田舎の初老爺、下手の横好きアマチュア作曲屋、70年代洋楽ポップス愛好家、70年代少女漫画愛好家、
女子ヴァリボ&フィギュアスケートオタ、Negicco在宅応援組です。

「あなたが子どもだったころ」


「心理カウンセラーは、ただじっと人の話を聞くことが大切なんですわ。私はただそこに座って、はぁ~とかほぉ~とかいっている。それだけで何もしません。その方が良いんですわ。」


これは先に亡くなられた、ユング心理学の「河合隼雄」先生の言葉です。先生は著作の中で、それこそ何度も何度も、この言葉を繰り返しています。


でその河合先生が、まさに「何もしないで聞き役に徹した」対談集「あなたが子どもだったころ」(講談社アルファ文庫)」を読みました。レビューにも書きましたが、これがまた面白かった!!


この本では、作家の田辺聖子さん、井上ひさしさん、詩人の谷川俊太郎さん、クラシック音楽の故・武満徹さん、それと何故か少女漫画家の竹宮恵子先生など、主に作家表現をなさっている著名人十人を招き、その子供時代の心の動きにスポットを当てて、河合先生が話を引き出す形を取っています。


・・・例えばこんな話が。


・・・「自分のことを親も学校もまったくわかってくれなくて、自殺を真剣に考えていたんです。子供ながらにナイフを買ったり真剣だった。その時、担任の先生が突然「ふらっと」家庭訪問に来て、親の目の前で「今お前は自殺を考えているだろう?」と、ズバリ言い当てられたんです。」(昆虫学者の日高敏隆さんの話)


「貧乏でピアノが買えなくてね。道を歩いてピアノが聞こえると、その家へ尋ねていって、すみません。五分でも良いから弾かせて下さい、とやってました。それも二十軒や三十軒じゃなかったな。でも当時は、、本当に100%「どうぞどうぞ」と弾かせてくれましたよ。そういう時代でした。」(作曲家の武満徹さんの話)


取り上げられた方々が、戦中派、戦後焼け跡派の年代の方が多いせいか、厳しかった戦争時代とその後の価値がまったく替わってしまった時代との葛藤に、皆さん苦しんでいた様子が語られています。それがなかなかに痛々しい。そしていつの世も不変な親や学校との葛藤、不登校や窃盗や自殺未遂など、ほぼ全員が問題を抱え、それを克服していった様子が、本当に感動的に話されています。


取り上げられた人が古い。もっと戦後生まれの人の子供時代じゃないと共感できない、と言う向きもあるかもしれません。でも、厳しい時代から、経済成長~飽食の現代までの間に、失われた何か、昔の日本人が持っていた品格とか気骨とか本当の優しさとか配慮とか、そういったものまで、行間から読みとれる。単なるウザイ昔話と言ってはいけませんよ。


みんな悩んで大きくなった。苦しいのは自分一人じゃない。高校生大学生から、子育て中のお母さんお父さんまで、是非読んで欲しいと思った本でした。